クオンティニュアム インタビューシリーズ第4回
クオンティニュアム初の顧客サイトへの量子コンピュータ「黎明」設置と運用を担う。
クオンティニュアムの社員、役員、関係者へのインタビューシリーズ企画の第4回。
登場するのは、理化学研究所の和光キャンパスに設置したクオンティニュアムの量子コンピュータの運用管理に携わる、ハードウェア研究員でありハードウェアチームのマネージャーであるネイサン・リスニです。
量子コンピュータに関心をもった経緯、クオンティニュアムに入社した理由、実際の量子コンピュータの設置や運用に携わる魅力などを聞きました。
*本記事は、英語で行われたインタビューを日本語に翻訳して記述しております。あらかじめご了承ください。

Nathan Lysne クオンティニュアム株式会社 ハードウェアマネージャー
物理学学士号、カーレトン大学(ミネソタ州、米国)にて物理学学士号、2020年アリゾナ大学にて物理学の博士号を取得。中性原子キューディット(2つの状態をもつキュービットより高次の、3以上の状態をもつ可能性がある量子系)の制御と測定に関する研究を行う。
コロラド州の国立標準技術研究所にて研究員を経験。2次元トラップ配列内の個々のイオンの制御に関する研究を行った。また、JETプログラムにて、熊本県で小学校と中学校の生徒を対象に英語教育の補助を担当した経験もあり、日本語も堪能。
〇研究者としてのジャーニー
ーー大学での専攻とこれまでのキャリアについてお聞かせください。
クオンティニュアムに入社する前から量子コンピュータに興味があった、もしくは携わっていたのでしょうか。
そうですね、私は大学時代から広く量子情報科学(Quantum Information Science)に興味を持っていました。当時はこの分野について深く理解していたわけではありませんが、量子ゲートやシステム間の新しいエンタングルメントの初期実証、さらには計測学(メトロロジー)などへの量子技術の応用については知っていました。
大学卒業後物理学からは離れていましたが、時間が経つにつれ、量子情報科学に関する記事などに引き込まれることが多くなりました。その興味がきっかけで大学院に戻って正式に学ぶことを決め、以来、実験やハードウェアに携わってきました。
そこからすでに10年以上経ったなんて信じられません。本当にあっという間に感じますし、自分自身がこの分野に関わるようになってから短い期間で、こんなに変化していることに驚かされます。
ーー経歴の中で何か大きな転機はありましたか。
(学位取得後に最初に就職した企業を選んだきっかけ、転職した場合はその理由、日本に来るきっかけなど)
クオンティニュアムに入社したことです!
もう少し真面目に言えば、自分が研究していたことを活かして産業界に進むとは、正直まったく予想していませんでした。ましてや、それが科学以外の自分の興味やスキルと重なる形で実現するとは思ってもみませんでした。クオンティニュアムへ入社したことは、私のキャリアにおいて大きな転機であり、日本で量子技術に携わることへと直接つながった出来事だと感じています。
ーー日本語はどこでどうして学ぼうと思いましたか。
少しくだらなく聞こえるかもしれませんが、日本語を学ぶきっかけは兄でした。兄は90年代初頭に日本へ移住して教職に就いており、自分が成長する中で、「兄が住んでいる国」という理由から日本に興味を持つようになりました。とはいえ、本格的に学び始めたのは、大学で日本語の授業を履修するようになってからです。
大学卒業後も、熊本に住みながら独学を続けました。大学院進学のためにアメリカへ戻った後は、日常的に日本語を使う機会は減りましたが、小説、ゲーム、音楽などを通じて、日本語の読解やリスニングに触れ続けるよう努めてきました。
〇現在の挑戦と成長
ーー現在担当している職務内容について教えてください。毎日どういったことを業務として行なっているのでしょうか。
和光にいるチームは、理化学研究所(理研)に設置した量子コンピュータ「黎明(REIMEI)」の運用維持に主な責任を負っています。「黎明」を運用し続けるため、さらには、その性能を向上させるために必要なツール、情報、リソースを確保するよう尽力しています。
チームマネージャーとして、メンバーの育成や採用など、「人」に関わることも重要であり、円滑に進むように気を配っています。
また、国内におけるクオンティニュアムのハードウェア開発の拠点であるため、残りの時間は日本における今後のプロジェクトの計画と支援に費やしています。また、時折、ラボ(量子コンピュータを設置している部屋の呼称)に入って修理作業を手伝うこともありますが、最近ではその必要はかなり少なくなっています。
ーー研究開発におけるチャレンジと、それを通じた研究者としての成長について教えてください。
また、楽しい、充実感があると感じることは何でしょうか。
根本的なところで言えば、いろいろな種類のコンピュータについて考えたり、何らかの形で関わったりできること自体とても面白いことだと今でも思っています。
というのも、これまで量子ビットやそれを制御するために必要な技術について学ぶことにかなりの時間を費やしてきたので、その研究を学術機関の外で続けられていることはとても素晴らしい経験となっています。
また、共通の目標に向けて人々とコミュニケーションを取り、関与を促す方法を考えることもとても楽しいです。和光チームはまだ新しいですが、そのチームを築き上げていく仕事には大きなやりがいを感じています。これから、さらに大きなプロジェクトを成し遂げられたらと願っています。
ーーこれまでのクオンティニュアムの業務の中でもっとも印象に残っていることは何でしょうか。
クオンティニュアムとしては初となる、顧客環境へ量子コンピュータを設置する今回のプロジェクトを通じて、「黎明」の設置と起動を行うことは唯一無二の経験でした。太平洋を越えて、精密で高性能なマシンを輸送し、顧客サイトに初めて設置する挑戦はそれだけで興奮するものでしたが、クオンティニュアム内のさまざまなチームとの連携が、さまざまなレベルと方法で実現された点は、ここで働く素晴らしい人々と交流できる大変良い機会でした。この経験は決して忘れることはないでしょう。

〇チームワークとグローバル連携
ーー和光にいるメンバーはどのように役割分担しているのでしょうか。
和光キャンパスには、「黎明」を支えるための主に2つのチームがあります。ハードウェアチームと施設運用チームです。
ハードウェアチームは主にハードウェア研究を専門とするサイエンティストで構成されており、AMOシステム(原子・分子・光学系)の経験を持つ物理学者が、機器を円滑に稼働させるために必要な各種システムの運用、診断、修理を行っています。チーム内では、各メンバーがシステムの特定部分における専門家としての役割を担っています。
施設運用チームは、施設の支援システム、ヘリウム液化プラント、ネットワークシステムの管理を担当しており、これらは理研から送られてくるジョブを処理し、「黎明」を稼働させ続けるために不可欠なものです。施設運用チームには、ヘリウム液化システムやITインフラの専門家が在籍しており、ハードウェアチームと連携しながらサイト全体の運営を支えています。
ーー米国本社のメンバーとのコミュニケーションはどのように行なっていますか。
和光のチームは、米国および英国のオフィスと定期的に連絡を取り合い、リソースと活動の調整を支援しています。やりとりはメールやTeamsやSlackのようなオンラインメッセージングツール、バーチャルミーティングなどで行っています。
私の役割は主に、これらのツールを通じて異なる拠点のチームと調整を行うことですが、すべてのメンバーは他拠点の担当者と定期的に連絡を取っています。本当にグローバルな体制です!
〇未来への展望とメッセージ
ーー今後挑戦してみたいことや目標はありますか。
個人的には、社内のチーム内で業務をこなし、意思疎通を図ることはできているものの、既存および潜在的な顧客、さらには国内の他機関の研究者たちとの関わりにおいて、まだできることが多くあると考えています。これらのスキルを伸ばすことは、将来的な国内でのハードウェアの共同研究やビジネス機会創出において自分自身の役割を強化し、その結果として、今後私のチームが貢献できるプロジェクトの幅を広げることにつながります。
目の前のより差し迫った課題に直面している今も、並行してこの目標に取り組み続けたいと考えています。
ーーハードウェアの管理や運用、研究に携わる学生や研究者へのメッセージがあればお聞かせください。
量子コンピューティングという分野は、何世代にもわたる研究者たちの貢献によって築かれた、確かな、そして苦労して得られた知識の上に成り立っています。その多くの研究者が、現在もなおこの分野で活躍していることは幸運なことです。
過去も現在も同様に、量子技術の最大の期待は、私たちの理解の地平線を超えた真理を明らかにするということです。この分野に携わるすべての人が、自らの研究が未来の発見につながる、より確かな土台を築いていくのだという責任を、心に留めていてくれたらと思います。
