• NEWS
INDEX
2023.04.13
BLOG

クオンティニュアム インタビューシリーズ第3回

量子コンピューティングの共同研究/計算基盤の営業、事業企画を推進

─夢はコンピュータ歴史博物館に残る仕事─

クオンティニュアムの役員、社員らにインタビューを行うシリーズ企画の第3回。今回は主に創薬や製造業分野を中心に営業、事業企画を担当している平岩美央里が登場します。メーカーの研究者などを経て入社し、現在は関西からリモート中心で勤務している平岩に、量子コンピューティングに関する営業、事業企画の仕事の内容や醍醐味などを聞きました。

平岩美央里 クオンティニュアム株式会社 Enterprise Sales Executive

博士(理学)。修士課程(物理学)修了後、大手製造業で半導体材料を中心とする研究開発に10年以上従事し、その間に放射光を利用したX線光学分野で博士号を取得。その後、同社でAI、IoT関連の新規事業開発、マーケティング業務に従事。2018年に米国シリコンバレーに移住し、コミュニケーション学を学びながら現地のITスタートアップ企業でエンジニアとして活動する。2021年に帰国し、ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン(現クオンティニュアム株式会社)に事業企画担当として入社。

 

〇製造業で半導体材料の研究に従事。渡米を経てクオンティニュアムに参画

──大学で物理学を専攻後、製造業で半導体材料の研究、AIやIoTを活用した新規事業の開発やマーケティングなどを経験してきたとのこと。クオンティニュアムに参画する前は、量子コンピュータに関心があったのでしょうか?

 入社する前から興味がありました。私は大学で物性物理学を専攻し、主に材料の研究をしていました。その後、製造業の研究職として半導体材料の研究に約10年間従事しましたが、もともと新しいトピックへの関心が強く、常にそうした話題も調べながら自分の研究テーマを決めていました。

 次に同じ会社で専門知識を生かした新規事業の開発やマーケティングの仕事に就き、いろいろと調査する中で、やはりあらゆる分野の技術発展の中心にはコンピュータがあり、特に今後はソフトウェア側のAI技術の発展に加え、ハードウェア側の新規技術として量子コンピュータが一つの大きな軸になりそうだと感じました。当時の業務で量子コンピュータと直接関わりを持つことはありませんでしたが、いずれ関係する仕事をしたいという想いがありました。

──2018年に米国シリコンバレーに活動の場を移しましたが、きっかけは?

 別の会社に勤めていた夫がシリコンバレーに転勤することが決まり、退職して一緒に行くことに決めました。当時は大企業の中で新しいことに個人でアグレッシブに挑戦することに限界を感じており、新しい場所で新たなことにチャレンジしたいという思いが強かったのです。そういう意味で夫の転勤は良い機会でした。

 ただし、当時は英語が全く話せなかったため、まずはなんとしてでも英会話を身につけ、現地の人とできるだけ早く意思疎通できるようになることが一番の目標でした。そのため、英会話を学ぶため大学でのELSプログラムに加え、同大学で(英語による)コミュニケーション学の資格コースに進学しました。さらに自分のキャリアも考え、現地でのネットワーキングや情報収集のため多くのセミナーや展示会に参加し、研究集会でボランティアを行いました。そこで知り合った人にIoTセンサーを作っている会社を紹介してもらい未経験であったソフトウェアエンジニアとして働く機会を得ました。海外で誰1人知り合いのいなかった環境だったのに、ついには知らない会社に未経験で入って、途中本当に大丈夫かという不安もありましたが(笑)。私にとって人生観が変わった重要な時間でした。

〇顧客のビジネスに応じて共同研究のスキームを企画

──その後、コロナ禍となり、なかなか収束しない中で2021年に帰国し、ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン(現クオンティニュアム)に参画しました。

 コロナ禍で夫の任期が前倒しとなり、日本に戻ることになりました。以前の職場に復帰する権利もあり、ありがたいお誘いも頂いたのですが、学んだ英語を生かせる外資系企業で、まだ誰もやっていない、これから立ち上がる分野の仕事にチャレンジしたいという思いが強く、ケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン(現クオンティニュアム株式会社)に入社しました。

──現在担当している量子コンピューティングに関する営業や事業企画では、どのようなお客様に、どういった提案をしているのですか?

 量子コンピュータはまだ新しい分野であり、実際にこの技術を各産業のビジネスでどう活用していくかは研究段階にあります。そのため、現在の提案先は企業の研究開発部門が中心です。その中でも、特に先端技術に積極的に投資して次の時代のアドバンテージをつかもうという大手企業が多いですね。

 現在、私の担当分野で提供しているサービスは大きく分けて二つあります。一つは共同研究、もう一つは量子計算化学ソフトウェアプラットフォーム「InQuanto(インクァント)」です。InQuantoは量子アルゴリズム研究を行う計算化学者の方々を今の時代から支援可能です。共同研究と同様に、お客様の研究活動をどのような形でサポートできるのか、しっかりと議論を進めながら営業活動を行えるよう心がけています。

また、お客様が求めるサービスが当社にないときには、どうやったら弊社がお客様にとっての価値を最大限高められるのかを積極的に考え、社内で議論を深め、新たな策を提案します。

〇今は実用化に向けた準備段階。初めに顧客の期待値を明確化することが大切

現状、ほとんどの企業にとって量子コンピュータは未知の領域であり、まず理解するところから始めるケースが多いと思います。そんな中、関連するサービスをお客様のビジネスの状況に応じて提案し、販売していくのは難しい仕事です。

──そうした難しさと直面しながら、特に気を配っていることは何ですか?

 お客様の期待値、やりたい事を明確に聞き出すことがとても大切です。はっきりとした目的や目標がなく、何となく「量子コンピュータに関することをやりたい」と思っていて、しかもそのための予算まである状況で「ではやりましょう」と始めてしまうと、期待と結果との間にミスマッチが生じる可能性があります。

 量子コンピュータへの期待が高まる中、「これまでできなかった計算を凄く速く行えるようになり、研究活動が今すぐ加速する凄い技術だ」といったように過度に期待を抱いてしまう方も多い状況です。将来的にはそうなる可能性がありますが、今はそれに向けた準備フェーズであり、量子コンピュータが実用レベルに達した際にお客様のビジネス領域においてどう活用できるのか、そしてそのためにどのような準備が必要なのか、を見極める段階です。研究活動の内容もそうしたことが中心であり、従来の計算に比べ、今すぐに圧倒的な成果を期待できるわけではありません。過剰な期待を抱いたまま何となく研究活動を始めると、結果にがっかりしてしまうかもしれないので、初めに必ずお客様の期待値を明確にすることが重要だと考えています。

〇最先端の研究活動と、それを利用する顧客の活動の双方を間近で見られることが醍醐味

──日本法人の中で研究や営業のチームは、どのように連携、役割分担をしていますか?

 私たち営業/事業企画が前面に立ち、その後ろに研究者や事務担当者がいるといった役割分担です。私はどんどん社外に出て、多くの企業・大学等所属の関連分野の方とコミュニケーションをとり、マーケットを知るために活動します。そうすると、当社の研究に対する考え方や提供サービスがマッチしそうなお客様と出会うことができます。現在はそのような方々は研究者というケースが多く、量子コンピュータの知識もあるため相談内容も専門的・具体的です。

こうしたお客様に当社の技術やサービスを紹介し、「ぜひクオンティニュアムと共同研究したい、サービスを利用したい」と思ってもらうためには、当社の方も研究者を同席し、本当の専門家の間でその可能性を議論してもらうというアプローチが一番だと思っています。そこで、山本などの研究者を紹介して話をしてもらい、方向性が固まったら、後は予算をどうするかという具合に進めていきます。

──自社の研究者と連携しながらも、専門知識は、かなり求められるのではないでしょうか

 量子コンピュータの価値を正しく理解し、伝えていくためには、現状は特にサイエンティフィックな専門知識がないと厳しいと思います。実際、私も最初は少し大変でした(笑)。当社が学位を持った人材を営業に採用しているのもそこに理由があって、学問的に正しい理解をお客様にお伝えできること、アカデミックな経験から共同研究の価値を理解した上でお客様に提案すること、が重要であるのだと理解しています。

 「これを使えば何%効率が上がる」といった商品ならばメリットが明確でお客様への説明もシンプルに行うことも可能かもしれませんが、今、私たちが提案しているのは、将来的にそうした商品の開発につながるかもしれない研究活動の支援が主になります。そのため、量子コンピュータとはどういう技術で、それを使うと新たにどういうことができるようになる可能性があるのか、といったことを明確に説明できなければ次に繋がりません。素晴らしい技術・研究者を数多く有している会社・チームがバックにあるのに、その前面に立つ私たちがお客様を失望させることのないように気を付けています。

──日本のIT業界では、博士号を持っていると、技術・研究職に進むというイメージがあると思いますが、現在、営業職として活動することの醍醐味を教えてください。

 米国では、大学の研究者もMBAを持っていたり、研究資金を得るために積極的に営業活動するのが一般的ではないかと思います。もし好奇心が旺盛で、いろいろな分野にチャレンジしてみたい、最先端の技術分野で活動してみたいという人がいたら、クオンティニュアムの営業や事業企画は最高の仕事だと思います。

 私は大きな企業で、特に産業分野にいたためか、B to Bかつ長期スパンでの産業応用を目指した自分の研究活動と、その研究成果を生かした商品をユーザーに提案する営業活動というものが、とてもかけ離れているように感じました。今の仕事では、自分たちの研究活動と、それを活用したお客様の活動、そしてマーケットの状況を全て間近に見ることができます。それが最先端研究を有するスタートアップで営業・事業企画に携わる醍醐味だと思っています。

〇関西からリモート中心で勤務。客先には積極的に足を運ぶ

──現在は関西に住み、ほぼリモートで仕事しているとのことですが、業務で支障になることはありませんか?

 そういう点では、私は良いタイミングで入ったのかもしれません。入社したときはコロナ禍の最中で、Webミーティングが主流でした。今はオフラインも解禁されましたが、皆さんオンラインに慣れたこともあり、Webミーティングが良いという方も未だ多くいらっしゃいます。

 ただし、Webミーティングだけだと、お客様とのコミュニケーションには限界もあり、一度の面会だけで終わりになってしまうこともあります。そうならないように、私はできるだけ直接お客様にお会いすることを心掛けています。

訪問先は西日本と東日本が半々くらいです。私は週に一度、東京オフィスに出社しているので、そのタイミングに合わせて東京周辺のお客様を訪問することが多いですね。

──社内コミュニケーションについては、どうでしょうか。

 私には、日本法人の上司とグローバルの営業組織の上司の2人がおり、後者はドイツに住んでいます。そのため、本社など海外のメンバーとは常にオンラインでミーティングしています。英語でのコミュニケーションが多いので、時間も掛かり大変ですが、私にとってはとても楽しいですね。実践的に英語力を高めていけますし、米国や英国、ドイツなど、文化的、技術的な背景が異なるメンバーといろいろな角度でコミュニケーションすることができています。

〇夢は自分が関わった仕事がコンピュータ歴史博物館に展示されること

──最後に、仕事とプライベートを問わず、今後挑戦してみたいことや目標があれば教えてください。

 私は、凄く仕事人間だと思います。もちろんプライベートでも色々とやりたいことはありますが、どちらかというと仕事が先にあり、仕事がちゃんとできたらプライベートもハッピーなタイプです。長く研究に携わる中で、自分が関わる新しい技術が世の中の役に立ち、世界を変えていくのに立ち会うことが夢でした。量子コンピュータという新技術に関して営業・事業企画ができる立場にある今は、その本質を正しく理解してもらい、世の中に普及させていく活動を納得できるまで追求したいと思っています。

 それと、もう一つ夢があります。私はシリコンバレーにいたとき、マウンテンビューにある「コンピュータ歴史博物館(Computer History Museum)」が大好きでよく足を運んでいました。ここには黎明期から現代までのさまざまなコンピュータや、その歴史に関する事物が展示されています。それを追っていくことでコンピュータが世の中にどう役に立ってきたかの歴史を理解することができます。

 ある日、いつものように一人でボーッと展示を眺めていたら、高齢の女性が近づいてきて「あなた、このコンピュータに興味があるの?」と私に聞きました。それはかつてIBMが販売していた初めてのパーソナルコンピュータだったのですが、女性は「私ね、昔これを売っていたのよ。懐かしいわ。このマニュアルもよく覚えているわ」と嬉しそうにおっしゃるのです。それがとてもうらやましくて…。

私もいつか、コンピュータ歴史博物館に展示されたクオンティニュアムのイオントラップ型コンピュータの前で、「私ね、昔これ売っていたのよ。すごいでしょ」って自慢できるようになりたいですね(笑)。